地方創生2.0ー強い経済を牽引する「ローカルハブ」のつくり方 神尾文彦

目的

本書を手に取った目的は、2つある。1つ目は、私の興味分野である地方創生について新しい気づきがあれば、それを得たいということ。2つ目は、私が半期所属することになる野村総合研究所社会システムコンサルティング部の部長神尾文彦氏が地方創生に対してどのようなビジョンを持っているか把握するためである。建前は前者であるが、本音は後者である。

概要

 野村総合研究所コンサルタント神尾文彦による新しい地方創生について述べられている。

 東京などの大都市圏は、グローバル都市の一員となる「メガリージョン」、地方圏は経済的に自立した「ローカルハブ」となり、それぞれが依存するのではなく、自立共生型のモデルになることを提唱している。そして、そのモデルの実現に必要な7つの処方箋をあげている。

 本書では基本的に、ドイツの事例との対比という形で述べられてる点が特徴的であると言える。ドイツの事例がどれほど日本に適応可能かという点については疑問点が残るところである。

感想

本書に関しては申し訳ないが疑問に思う点がいくつかある。

・メガリージョンに対しての効果的な施策が見当たらない

ガリージョンとは、海外からヒト・モノ・カネが入ってくることであり、簡単に実現できるものではないと考えられるが、そこに対する効果的な施策が見当たらない。著者はどうやらロンドンやシンガポールをイメージしているようだが、地政学的な背景の異なるロンドンやシンガポールを参考にするのは難しいと考えられる。また、これらの都市は成長時にメガリージョンとしての機能を身につけていったと考えられるので、成熟してしまった日本の東京や大阪にグローバルのヒト・モノ・カネが入ってくると考えるには、無理があると言えるだろう。

・都市と地方の相互依存構造の弊害に対する考察に対する疑問

”東京で活動する企業の1人あたり付加価値額を見ると、地方のおよそ4倍である”とあるが、これは東京には大企業が多く、地方には中小企業が多い。そしてこれはアトキンソン氏が触れていた、企業の規模による生産性の違いと考えることも難しくないと思われるため、無理に相互依存構造のせいにするのは違和感がある。

・7つの処方箋の効果に対する疑問

ひとことで言うと弱い。大企業を呼び戻すのに、

経団連が指摘しているように、本社機能の地方移転を促進していくためには、国においては、法人税・法人事業税等の優遇や、不動産取得税等のイニシャルコストの軽減などの税制面での優遇策を講じるとともに、政府関連機関の地方移転、地方分権改革を徹底して進める必要がある。また、地方においては、交通インフラ等の事業環境整備をさらに進めながら、各地方において独自の産業集積を図り、持続的に発展するクラスターを形成していくことが望まれる★ 4。とりわけローカルハブとしては、地方創生の重要なプレーヤーである大企業を呼び戻すために、先述のような民間企業や国の動向を敏感に察知しつつ、地域資源を最大限に活用した「産業クラスター戦略」を具体化することが重要である。特区制度(地方創生特区、構造改革特区など)など国の制度やモデル事業を有効に活用するなど、独自の制度や振興策を設けることも必要であろう。”

とあるが、弱くないか?もしくはざっくりしすぎているか、どちらにせよ、地方創生が上手くいくビジョンはここからは見えない。

 

一方、納得のいく点・ためになる点もあった。

・日本は国(中央)から地方に払われる財政調整額がとても多い

日本は、年間に約19兆円の財政調整を行っているが、これはドイツの約7倍、イギリスの約3倍に相当する大きさである。(しかもイギリスは、地方の税収はほぼゼロである一方、日本は国の税収と地方の税収が半分ずつである。)要は、日本の地方は、欧米と比べても国全体の芸材の足を引っ張っているのだ。また、中小企業向け信用補完制度が、日本は他国と比べて、極めて大きい。しかし、企業の新陳代謝の為に使っているイギリスやドイツとは異なり、日本は現行企業の存続にも多額の保証をしている。

・東京とて、生産性は高くない

東京は、政府・事業・情報等の都市機能がほとんど集中しているため、てっきり生産性が高いと思っていたがそうではない。一人あたりGDPは、ニューヨーク大都市圏、ロンドン大都市圏の6割前後にすぎない。

・地方で優秀な人材を確保するためには、特色ある大学が全国各地に存在している必要がある

事例で挙げられているドイツは、工学系単科大学が全国各地に存在している。また、偏差値という一つの基準で測られ、序列が形成されている日本の大学と異なり、それぞれが独自の技術教育基盤を有している。日本の大学も偏差値だけで分けるのは終わりにしたほうがいいのではないかと思う。