映画「何者」を視聴して…

概要

・テーマは就活で、何者かになろうともがく就活生の苦悩を描いている。

 

感想

この作品のメッセージは、「他人と比べるな、等身大の自分でぶつかっていけ」ということだと思う。

 

去年まで就活生であった僕には、正直心が痛くなるようなリアルな描写が多かった。

主な登場人物は、以下の通りである。

・就活の分析ばかりして、自分は選考には受からないがプライドばかり高く虚勢を張る主人公「たくと」

・素直でヒトに愛されたり頼るのが上手く、自分の中にもしっかりと折り合いをつけられる世渡り上手の「コータロー」

・不器用ながらも一生懸命に前に進もうとするが、家庭の事情により自分の就活をしばられてしまう「みずき」

・自分で成し遂げたことは何もなく本当は自信がないため自分の肩書に必死にすがろうとする「りか」

・自分は他の人とは違う、センスがあると思われたくてカッコつけようとするが、本当は自分が他の人と同じモノサシで測られるのが怖いだけの「たかよし」

・顔こそ出てこないが、「たくと」と一緒に演劇の脚本をやっていて、今もプロを目指して自分の演劇を作っている「ギンジ」 

 

それぞれの心情も痛いほどわかる、いままでやりたいことやっていれば、楽しく過ごすことが出来たのに就活では急に情報の波に揉まれながらも自分の進路を決めていかなければならない。

 

そこには不安・焦り・恐怖・嫉妬…様々な感情が渦巻いている。

 

表面上、みんなで協力して就活対策とか行うけれども、みんなが同じ方向を向いてるわけではないし、誰かがいなくなると欠席裁判みたいに、「あいつの受けてる会社やばくない」とか「あの対策はやりすぎでしょ」とかお互いに対するディスが出てくる。でもこれは本当にその人を批判したいわけじゃない、ただ自分のやり方があっているという安心感を得たいだけなのだ。

 

物語の後半で、衝撃の事実が分かる。「たくと」は、みんなの就活を応援しているような態度をとっていたが、本当はTwitterの裏垢で、みんなの行動を分析して、バカにするような投稿を繰り返していた。

 

「たくと」は、自分以外の登場人物をバカにしていると「りか」に指摘されるが、俺は違うと思う。「たくと」は、みんなのことが羨ましかった。目の前のことに一生懸命になれるみんなのことが。自分は達観した人間で、俯瞰できるのが自分と他の人との違いだと思っているから、そこのアイデンティティーを保つためだけにツイートを繰り返していた。でも、それを自分の一番好きな「みずき」に見られたとき、自分がいかに愚かなことをしていたのかにやっと気づくことが出来たのだと思う。

 

これらから自分が何をすべきなのか悟った「たくと」は、散々目の敵にしていた「ギンジ」の公演を見に行く。そこには粗削りでも自分の表現したい演劇を必死に伝えようとしている「ギンジ」の姿があった。それを目の当たりにした「たくと」は「ギンジ」とは違う道にはなるが、不格好でもいいから自分の道を切り開こうと頑張っていく背中が映し出されるところで物語は終わる。

 

この間、心理学に関する本で出てきた「認知的不協和」に「たくと」は陥ってしまっていると思った。プロの世界を甘く見てやりたい演劇を続けている「ギンジ」は間違っていて、現実をみているじぶんが正しいと思いたいだけ。でも他人を否定すればするほど自分の首がつまり、何もできなくなるのだ。

 

また、この作品の中で何度も出てくる言葉がある。「頭の中にあるうちは全部が傑作だ」という言葉。これは本当は「たくと」に向けられた言葉だと思う。完璧主義で他人に自分の弱みを見せることのできない、10でも20でもいいから、世の中に発信していかないといけないのは「たくと」なのである。